システム投資の稟議を通す:経営陣に響くROI試算のつくり方

システム投資の稟議がなかなか承認されず、担当者として苦労した経験はありませんか。経営陣に響くROI試算の組み立て方と、稟議書に盛り込むべき観点を実務目線で解説します。

2026年09月06日
システム投資の稟議を通す:経営陣に響くROI試算のつくり方

現場でシステム導入の必要性を強く感じていても、いざ稟議を通そうとすると「費用対効果が分からない」「本当に必要なのか」と経営陣から差し戻されてしまう、という相談が寄せられることがあります。現場の実感だけでは、投資判断を行う経営陣を納得させるには不十分なケースが少なくありません。

稟議を通すためには、業務が楽になるという定性的な価値だけでなく、投資額に対してどの程度のリターンが見込めるのかを、数字で示す準備が必要です。この記事では、経営陣に響くROI試算のつくり方と、稟議書に盛り込むべき観点について解説します。

この記事の要点(30秒でわかるまとめ)

  • 稟議で重視されるのは現場の便利さよりも投資額に対するリターンの根拠
  • ROI試算には削減できる工数・コスト投資回収までの期間の両方を示すことが重要
  • 数字だけでなく、リスクや前提条件を明記することで信頼性が高まる
  • 補助金の活用を検討する場合は、制度の詳細を個別に確認する姿勢が求められる

なぜシステム投資の稟議は通りにくいのか

結論:稟議が通りにくい主な理由は、現場の「便利になる」という感覚的な価値と、経営陣が求める「投資額に対するリターン」という定量的な根拠との間にギャップがあるためです。

現場担当者は日々の業務の中でシステムの必要性を強く感じていますが、経営陣は限られた予算をどこに配分するかという視点で投資を判断します。そのため、「現場が楽になる」という説明だけでは、他の投資案件と比較したときに優先順位が低くなりがちです。稟議を通すには、現場の課題感を経営陣の判断軸である数字に変換する作業が欠かせません。

ROI試算に盛り込むべき2つの要素

結論:ROI試算では、削減できる工数・コストの見積もりと、投資回収までにかかる期間の両方を示すことが重要です。

まず、システム導入によってどの業務にどれだけの工数がかかっているかを洗い出し、削減が見込める時間やコストを試算します。次に、その削減効果を投資額と照らし合わせ、何年(または何ヶ月)で投資を回収できる見込みかを算出します。投資回収の考え方については、スクラッチ開発の投資回収を約2年で実現する費用設計の考え方でも詳しく解説しています。

削減効果の見積もり方

削減効果を試算する際は、「担当者の時給換算 × 削減できる作業時間 × 対象人数」といった形で、できるだけ具体的な計算式を稟議書に示すことをおすすめします。曖昧な「効率化できる」という表現よりも、根拠となる計算過程を示すほうが、経営陣の納得感を得やすくなります。

費用の全体像を正しく把握する

結論:ROI試算の前提となる投資額は、初期開発費だけでなく保守運用費まで含めた総額で把握する必要があります。

初期開発費のみで試算してしまうと、実際の投資額を過小評価してしまい、稟議が通った後に「想定より費用がかかる」という事態を招きかねません。保守運用費の内訳や、アカウント数に応じて費用が変動する契約かどうかは、長期的な総コストに大きく影響します。詳しくは、システム開発後の保守運用費はいくらかかるかで解説しています。また、既存のSaaSを使い続けた場合の費用と比較する試算も、稟議書の説得力を高める材料になります。企業規模別の試算例は、Salesforceを続けるといくらかかるかで紹介しています。

前提条件とリスクを明記する

結論:ROI試算には、削減効果やリターンの数字だけでなく、その前提条件やリスクもあわせて明記することで、稟議書全体の信頼性が高まります。

「〜という条件のもとで、この程度の削減が見込める」という書き方をすることで、経営陣は試算の妥当性を判断しやすくなります。逆に、根拠のない断定的な効果を記載してしまうと、後になって「話が違う」という不信感につながるリスクがあります。効果は「見込める」「〜のケースが多い」という表現で、幅を持たせて伝える姿勢が実務上は望ましいといえます。

補助金の活用を稟議に盛り込む場合の注意点

結論:AI開発に使える補助金の活用は稟議書の説得材料になり得ますが、申請可否や採択の判断については専門家・事務局への確認を前提とした書き方が必要です。

補助金を前提に投資額を試算すると、採択されなかった場合に計画全体が崩れてしまうリスクがあります。補助金はあくまで「活用できる可能性がある選択肢」として位置づけ、断定的な記載は避けることが重要です。補助金制度の概要については、AI開発に使える補助金活用ガイドで解説していますが、実際の申請可否は制度の詳細を個別に確認することをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q. ROI試算はどのくらいの精度で作ればよいですか? A. 完璧な精度は求められませんが、計算の根拠となる前提条件を明記し、算出過程を追えるようにしておくことが重要です。

Q. 定性的な効果は稟議書に含めなくてもよいですか? A. 定性的な効果も補足情報として記載すると理解を得やすくなりますが、あくまで定量的な試算を主軸にすることをおすすめします。

Q. 経営陣から追加の説明を求められた場合、どう対応すればよいですか? A. 試算の前提条件を再確認し、必要であれば開発会社に相談してより具体的な見積もりや事例を追加で提示してもらうことが有効です。

Q. 補助金を使う前提で稟議を進めてもよいですか? A. 補助金の採択は不確実性があるため、補助金なしでも成立する投資計画を主軸としつつ、補助金を「活用できれば投資回収がさらに早まる」という補足として扱うことをおすすめします。

まとめ

システム投資の稟議を通すには、現場の便利さという感覚的な価値を、削減効果と投資回収期間という数字に変換して示すことが欠かせません。前提条件やリスクを明記し、費用の全体像を正しく把握した上で試算を組み立てることが、経営陣の納得感につながります。

Irwin&co株式会社では、フォーム回答から約3分で見積書・要件定義書を自動生成し、初回商談では動くデモを無償で提示することで、稟議に必要な具体的な材料を早い段階で揃えられる進め方を提供しています。ROI試算の相談も含めて、お問い合わせからご連絡ください。

執筆者プロフィール

アーウィン 海(Irwin&co株式会社 代表取締役)

アーウィン 海Irwin&co株式会社 代表取締役

生成AIを活用したシステム開発・コンサルティング・研修サービスを提供するIrwin&co株式会社を創業し、IT専任者のいない中小企業を中心に、業務システムの構築とSaaSからの移行を支援している。「SaaSの標準機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせたシステムを自社の資産として持つ」という考え方のもと、不動産をはじめとする業界で、生成AIを前提とした業務システムの設計・開発を数多く手がける。

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