SaaS継続かスクラッチ開発か:5年総額で比較する判断軸
SaaSを使い続けるべきか、自社に合わせたスクラッチ開発に切り替えるべきか。5年総額での費用比較と、費用以外に考慮すべき判断軸を整理して解説します。
「今使っているSaaSを続けるべきか、それとも自社専用のシステムを開発すべきか」——業務システムの見直しを検討する担当者から、こうした相談が寄せられることがあります。月額費用だけを見ると継続の方が手軽に思えますが、複数年の総額や現場への定着度合いまで含めて比較すると、判断が変わることも少なくありません。
この判断が難しいのは、SaaSとスクラッチ開発では費用の発生の仕方がまったく異なるためです。SaaSは利用を続ける限り費用が発生し続ける一方、スクラッチ開発は初期に開発費が集中し、その後は保守運用費のみで継続できます。単月の費用感で比較すると誤った判断につながりやすく、複数年の総額で比較することが欠かせません。
この記事では、SaaS継続とスクラッチ開発を5年総額で比較するための考え方と、費用以外に考慮すべき判断軸を整理します。
この記事の要点(30秒でわかるまとめ)
- SaaSは使い続ける限り費用が発生し続け、スクラッチ開発は初期費用+保守運用費という構造の違いを理解することが出発点
- 5年総額で比較すると、利用人数が多い組織ほどスクラッチ開発が有利になりやすい傾向がある
- 費用だけでなく、現場への定着度合いや業務との適合度も重要な判断軸になる
- 「一部は継続、一部は再設計」という段階的なアプローチも現実的な選択肢の一つ
費用構造の違いを理解する
結論:SaaSはユーザー課金型で継続的に費用が発生し、スクラッチ開発は初期費用が集中したのち保守運用費のみで継続するという、根本的に異なる費用構造を持っています。
SaaSは月額・年額のライセンス費用が利用人数に応じて発生し続けるため、組織が成長するほど費用も比例して増加します。一方スクラッチ開発は、要件定義から実装までの開発費が初期に発生しますが、稼働後はアカウント数に依存しない保守運用費のみで継続できるケースが一般的です。この違いを理解しないまま単月の費用だけを比較すると、実態と異なる判断をしてしまう可能性があります。
5年総額で比較する
結論:5年というスパンで比較すると、SaaSは利用人数に比例して総額が膨らみ続けるのに対し、スクラッチ開発は開発費が一定であるため、利用人数が多い組織ほどスクラッチ開発が有利になりやすい傾向があります。
| 比較項目 | SaaS継続 | スクラッチ開発 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 小さい(導入設定費程度) | 開発費が発生(AI駆動開発で相場の約1/2程度に抑制可能) |
| ランニング費用 | ユーザー数に比例して増加 | 保守運用費のみ(アカウント数非依存) |
| 5年総額の傾向 | 利用人数が多いほど大きくなる | 利用人数が増えても保守運用費は大きく変わらない |
| カスタマイズ | 標準機能の範囲内、または追加費用 | 自社業務に合わせて設計可能 |
Salesforceの5年コスト試算で示したように、利用人数が50名規模になると5年総額は約6,300万円に達する試算になります。この規模になると、スクラッチ開発の開発費と保守運用費を合算しても、総額で下回るケースが出てきます。
費用以外に考慮すべき判断軸
結論:総額の比較だけでなく、現場への定着度合いや業務との適合度も、中長期的な判断には欠かせない要素です。
- 業務との適合度:標準機能で業務がまかなえるか、独自の業務フローに合わせた設計が必要か
- 現場への定着度合い:Salesforceが現場に定着しない状態が続いている場合、費用対効果以前に運用が回っていない可能性がある
- 拡張・改修の柔軟性:将来的な業務変化にどれだけ柔軟に対応できるか
- データの資産性:自社の業務データを自社のシステムとして保有できるかどうか
費用の総額だけで判断すると、実際に現場で使われるかどうかという視点が抜け落ちてしまうことがあります。総額比較と定性的な判断軸を組み合わせて検討することが望ましいといえます。
「一部は継続、一部は再設計」という選択肢
結論:すべてを一度に切り替える必要はなく、優先度の高い業務領域から段階的にスクラッチ開発へ移行するアプローチも現実的です。
業務の中でも特に定着していない領域や、標準機能とのミスマッチが大きい領域から優先的に再設計し、比較的うまく機能している領域はしばらく継続するという段階的なアプローチも選択肢の一つです。脱Salesforce完全ガイドでも触れているように、判断基準を明確にしたうえで、自社にとって現実的な移行ペースを見極めることが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 利用人数が少ない企業でもスクラッチ開発は有利になりますか? A. 利用人数が少ない場合はSaaSの費用も相対的に小さくなるため、総額での差は縮まる傾向があります。業務との適合度など、費用以外の観点も含めて検討することをおすすめします。
Q. 比較のための試算はどうやって行えばよいですか? A. 現在のSaaS費用の総額(ライセンス費に加えて隠れコストも含む)と、開発費・保守運用費の見積を取得し、5年程度のスパンで比較するのが基本的な進め方です。
Q. スクラッチ開発は導入までにどれくらい時間がかかりますか? A. 業務範囲や開発規模によって異なります。段階的な開発を選択すれば、優先度の高い領域から先行して稼働させることも可能です。
Q. 判断に迷った場合、まず何から始めればよいですか? A. 現状のSaaS費用の総額を洗い出し、開発費・保守運用費の見積を取得したうえで、複数年の総額シミュレーションを行うことから始めるのが現実的です。
まとめ
SaaS継続かスクラッチ開発かの判断は、単月の費用感ではなく5年総額で比較することが基本です。加えて、現場への定着度合いや業務との適合度といった費用以外の判断軸も踏まえることで、自社にとって現実的な選択が見えてきます。すべてを一度に切り替える必要はなく、段階的なアプローチも有効な選択肢です。
Irwin&co株式会社は、こうした比較検討の段階からご相談いただけます。フォーム回答から約3分で見積書・要件定義書を即日自動生成する仕組みも用意しており、初回商談では実際に動くデモをご覧いただけます。自社の総額シミュレーションを行いたい場合はお問い合わせからご相談ください。
執筆者プロフィール

アーウィン 海Irwin&co株式会社 代表取締役
生成AIを活用したシステム開発・コンサルティング・研修サービスを提供するIrwin&co株式会社を創業し、IT専任者のいない中小企業を中心に、業務システムの構築とSaaSからの移行を支援している。「SaaSの標準機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせたシステムを自社の資産として持つ」という考え方のもと、不動産をはじめとする業界で、生成AIを前提とした業務システムの設計・開発を数多く手がける。
