複数システム同時移行の優先順位と順序の決め方
複数のシステムを同時期に移行しなければならず、どの順番で進めるべきか判断に迷う方へ。優先順位の決め方と、移行順序を設計する際の考え方を解説します。
「CRM・基幹システム・勤怠管理を同じタイミングで入れ替えなければならないが、どこから手をつければいいのか分からない」——複数のシステムの契約更新タイミングが重なり、同時期に移行計画を立てなければならない企業から、こうした相談が寄せられることがあります。1つのシステム移行だけでも大きな負担がかかる中、複数のシステムを並行して進めようとすると、優先順位を誤ると現場の混乱や二重作業が発生しやすくなります。
複数システムの同時移行は、単純に「重要なものから」という基準だけで順序を決めると、データの依存関係やリソースの競合を見落としてしまうことがあります。この記事では、複数システムを同時に移行する際の優先順位・順序の決め方について整理します。
この記事の要点(30秒でわかるまとめ)
- 移行順序はデータの依存関係を最優先で確認してから決める
- 契約更新期限だけでなく**現場の対応能力(リソース)**も優先順位の軸に入れる
- 影響範囲が大きいシステムほど先行して着手し、検証期間を確保する
- 複数移行を並行する場合は担当者・開発会社のリソース競合を事前に調整する
データの依存関係を最優先で確認する
結論:複数システムを移行する場合、どのシステムが他のシステムのデータを参照・連携しているかを最初に整理し、依存されている側のシステムから優先的に移行計画を立てる必要があります。
例えば、CRMのデータを基幹システムが参照している場合、CRMの移行が完了していない状態で基幹システムの移行を進めると、連携部分で不整合が発生するリスクがあります。各システム間のデータの流れを図示し、どちらが「データの出どころ」でどちらが「参照する側」かを明確にすることが、順序決定の出発点になります。API連携を前提とした段階的な移行アーキテクチャについてはAPI連携を前提にした段階的な移行アーキテクチャの設計で詳しく解説しています。
契約更新期限だけでなく現場の対応能力も考慮する
結論:移行順序を契約更新期限の近さだけで決めると、現場が複数の移行対応に同時に追われて混乱するリスクがあるため、現場の対応能力も優先順位の軸に加える必要があります。
契約更新のタイミングが近いシステムから順に移行しようとするのは自然な発想ですが、現場の担当者が複数システムの移行対応を同時に抱えると、問い合わせ対応や研修の負荷が重なり、どの移行もおろそかになる恐れがあります。可能であれば、移行のピーク時期が重ならないよう、スケジュールをずらす調整を契約更新のタイミングと合わせて検討することが望ましいといえます。現場への定着を重視した移行の進め方は平均年齢の高い現場でもシステム刷新を定着させる移行の進め方でも解説しています。
影響範囲が大きいシステムほど先行着手し検証期間を確保する
結論:業務への影響範囲が大きいシステムほど、想定外の問題が見つかった際の手戻りコストが大きくなるため、他のシステムより前倒しで着手し、十分な検証期間を確保しておくことが望ましいといえます。
全社員が日常的に使うシステムと、特定部署のみが使うシステムでは、移行時のトラブルが業務に与える影響の大きさが異なります。影響範囲の大きいシステムを後回しにしてしまうと、検証不足のまま本番移行を迎えるリスクが高まります。影響範囲の大きいシステムから着手し、問題を早期に洗い出しておくことで、後続の移行にも知見を活かせます。
| 優先度を上げる要因 | 優先度を下げてよい要因 |
|---|---|
| 他システムがデータを参照している | 他システムとの連携がほとんどない |
| 全社員が日常的に使用している | 利用者が限定的な部署のみ |
| 契約更新期限が近い | 更新期限まで余裕がある |
| 過去に大きな不具合・トラブルがあった | 安定して稼働してきた実績がある |
担当者・開発会社のリソース競合を事前に調整する
結論:複数システムの移行を並行して進める場合、社内担当者や開発会社の人員が重複して割り当てられていないかを事前に確認し、リソースの競合を調整しておく必要があります。
同じ担当者が複数の移行プロジェクトの責任者を兼任していたり、同じ開発会社が複数の移行を同時に受託している場合、どちらかの進行に遅れが生じると、もう一方にも影響が及ぶことがあります。移行プロジェクトごとに必要なリソースを事前に見積もり、重複がある場合はスケジュールをずらす、あるいは体制を補強するといった調整を行うことが重要です。移行プロジェクトの社内体制づくりについては移行プロジェクトの社内体制づくり:担当者は何をすべきかを参考にしてください。
移行順序は一度決めたら固定ではなく見直しを前提にする
結論:移行計画の初期段階で決めた順序も、進行中に新たな依存関係や問題が見つかることがあるため、定期的に見直す前提で運用することが望ましいといえます。
計画段階では見えていなかったデータ連携や、想定より大きな現場の反発が後から判明することがあります。移行順序を固定的なものとして扱わず、進捗状況や新たに判明したリスクに応じて柔軟に調整できるよう、関係者との合意形成のプロセスを用意しておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 優先順位を決める際、誰を巻き込んで議論すべきですか? A. 各システムの業務担当者と情報システム部門、可能であれば開発会社も交えて、依存関係やリソースの実態を踏まえた議論をすることをおすすめします。
Q. 2つのシステムをどうしても同時に移行しなければならない場合、どうすればよいですか? A. 完全に同時に進めるのではなく、要件定義や検証といった工程を時期をずらして重ねることで、リソースの集中を避けられる場合があります。
Q. 移行順序を決めた後に優先順位が変わることはありますか? A. あります。契約状況の変化や、進行中に判明した技術的な制約によって、当初の優先順位を見直す必要が出てくることは珍しくありません。
Q. 小規模な企業でも複数システムの移行順序を細かく検討すべきですか? A. システムの数が少ない場合でも、データの依存関係だけは必ず確認しておくことをおすすめします。依存関係の見落としは規模の大小にかかわらず大きな問題につながります。
まとめ
複数システムを同時に移行する際の優先順位は、契約更新期限だけでなく、データの依存関係、業務への影響範囲、現場やリソースの対応能力を踏まえて決める必要があります。一度決めた順序も固定せず、進行中の状況に応じて見直す前提で運用することが、混乱の少ない移行につながります。
Irwin&co株式会社では、複数システムが絡む移行プロジェクトにおいて、データ連携の整理から段階的な移行アーキテクチャの設計まで支援しています。開発実績は不動産・建設・食品・製造・通信・保険など幅広い業種に及びます。複数システムの移行計画についてご相談があれば、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。AI受託開発サービスの詳細もあわせてご覧ください。
執筆者プロフィール

アーウィン 海Irwin&co株式会社 代表取締役
生成AIを活用したシステム開発・コンサルティング・研修サービスを提供するIrwin&co株式会社を創業し、IT専任者のいない中小企業を中心に、業務システムの構築とSaaSからの移行を支援している。「SaaSの標準機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせたシステムを自社の資産として持つ」という考え方のもと、不動産をはじめとする業界で、生成AIを前提とした業務システムの設計・開発を数多く手がける。
