新旧システムの並行稼働と切り戻し計画
システム移行時の並行稼働はどの期間・範囲で行うべきか、また万一の際の切り戻し計画をどう準備しておくべきかを、実務上のポイントに沿って解説します。
システムの入れ替えを検討する際、多くの担当者が不安に感じるのが「移行した瞬間に業務が止まったらどうしよう」という点です。旧システムを止めて新システムに切り替えたところ、想定外の不具合や運用上の抜け漏れが見つかり、業務が一時的に混乱してしまう——このようなリスクは、移行プロジェクトにおいて現場からよく聞かれる懸念の一つです。
このリスクを抑える手段として広く使われているのが「並行稼働」という考え方です。新旧両方のシステムを一定期間同時に動かし、問題がないことを確認したうえで旧システムを停止する進め方で、万一の際にすぐ旧システムに戻せる「切り戻し計画」とセットで検討することが一般的です。
この記事では、並行稼働をどの範囲・期間で行うべきか、切り戻し計画をどのように準備しておくべきかを解説します。
この記事の要点(30秒でわかるまとめ)
- 並行稼働とは、新旧システムを一定期間同時に稼働させ、新システムの安定性を確認する進め方
- 並行稼働の期間は、業務サイクル(月次・四半期など)を1〜2周は含む長さで設計することが望ましい
- 切り戻し計画は「いつ」「誰が」「どう判断するか」の基準をあらかじめ決めておくことが重要
- 並行稼働にはデータの二重管理コストが発生するため、範囲を絞った計画設計が現実的
並行稼働はなぜ必要なのか
結論:新システムに切り替えた直後に見つかる不具合や運用上の抜け漏れによる業務停止リスクを抑えるために、並行稼働という緩衝期間を設けます。
どれだけ入念にテストを行っても、実際の業務データ・実際の利用者による運用の中でしか見つからない問題は一定数存在します。特に、月次処理や四半期ごとの集計処理など、頻度の低い業務ほど、本番相当のタイミングでしか動作確認ができないケースがあります。並行稼働は、こうした「実際に動かしてみないと分からない問題」を、旧システムという安全網がある状態で洗い出すための期間です。
並行稼働の期間・範囲をどう設計するか
結論:業務サイクルを最低1〜2周は含む期間を目安にしつつ、対象範囲は主要業務に絞って設計するのが現実的です。
並行稼働の期間は長ければ長いほど安心ですが、その分だけ二重入力・二重確認のコストがかかり続けます。目安としては、日次業務が中心であれば2〜4週間程度、月次締めなどの業務を含む場合はその業務サイクルを最低1〜2周含む期間を設定するケースが多く見られます。
範囲についても、すべての機能を並行稼働の対象にすると現場の負担が大きくなりすぎるため、業務への影響が大きい主要機能(受発注・見積・顧客管理など)を優先し、影響の小さい補助的な機能は新システムへの一括切り替えとする、といった範囲の絞り込みが実務上は現実的です。移行前の機能の棚卸しについてはシステム乗り換え前の「棚卸し」実践法で解説しているので、範囲を検討する際の参考にしてください。
切り戻し計画に含めておくべき要素
結論:「どのような状態になったら切り戻すか」の判断基準と、「誰が・どう判断するか」の体制をあらかじめ明文化しておくことが重要です。
切り戻し計画は、実際に問題が起きてから考えるのでは間に合いません。事前に次のような要素を整理しておくことが望ましいです。
| 項目 | 検討しておくこと |
|---|---|
| 切り戻しの判断基準 | どの程度の不具合・業務影響が出たら切り戻すか |
| 判断者・体制 | 誰が最終判断を行うか、緊急連絡の体制はどうするか |
| データの整合性 | 並行稼働期間中に新システムだけに入力されたデータをどう扱うか |
| 切り戻し手順 | 旧システムへの復帰作業に必要な時間・手順 |
特にデータの整合性は見落とされがちなポイントです。並行稼働中は新旧どちらのシステムを「正」とするかを決めておかないと、切り戻しの際にデータの不整合が生じるリスクがあります。データ移行の具体的な進め方はSalesforceのデータ移行の進め方:オブジェクト棚卸しからCSV移行まででも取り上げているので、あわせて参考にしてください。
並行稼働中に起きやすい現場の負担とその対策
結論:二重入力による現場の負担増は避けられない前提として、期間を短く区切る・入力を自動化するなどの対策をあらかじめ検討しておくことが有効です。
並行稼働中は、原則として同じデータを新旧両方のシステムに入力する必要があるため、現場の業務量が一時的に増加します。この負担を軽減する方法としては、並行稼働の対象範囲・期間を必要最小限に絞ること、あるいはAIによる自動入力の仕組みを活用し、一方のシステムへの入力をもう一方に自動反映させることなどが考えられます。会議メモや音声からの自動入力の仕組みについては営業の活動記録を手入力から解放する:会議メモ・音声からのAI自動入力で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 並行稼働は必ず行うべきですか? A. 業務への影響度によります。影響が小さい補助的なシステムであれば一括切り替えで問題ないケースもありますが、基幹業務に関わるシステムの場合は並行稼働を検討することをおすすめします。
Q. 並行稼働の期間はどのくらいが適切ですか? A. 業務内容によって異なりますが、日次業務中心なら2〜4週間、月次締めなどを含む場合はその業務サイクルを1〜2周含む期間を目安にするケースが多く見られます。
Q. 切り戻しが必要になった場合、どのくらいの時間で戻せますか? A. システムの構成や切り戻し手順の準備状況によって大きく異なります。事前に切り戻し手順を整理し、想定される所要時間を関係者で共有しておくことが重要です。
Q. 並行稼働中の二重入力の負担を減らす方法はありますか? A. 対象範囲・期間を絞り込む方法のほか、AIによる自動入力・データ連携の仕組みを活用して片方への入力をもう一方に自動反映させる方法もあります。
まとめ
新旧システムの並行稼働は、切り替え直後の業務停止リスクを抑えるための重要な緩衝期間です。期間・範囲を業務サイクルに合わせて設計し、切り戻しの判断基準や体制をあらかじめ明文化しておくことで、万一の際にも落ち着いて対応できる移行計画になります。
Irwin&co株式会社は、要件定義段階から並行稼働・切り戻し計画を含めた移行プロジェクトの設計を支援しています。案件継続率95%という実績のもとで、現場の負担を抑えた移行の進め方をご提案していますので、移行を検討されている方はお問い合わせからご相談ください。開発の進め方はAI受託開発サービスでも紹介しています。
執筆者プロフィール

アーウィン 海Irwin&co株式会社 代表取締役
生成AIを活用したシステム開発・コンサルティング・研修サービスを提供するIrwin&co株式会社を創業し、IT専任者のいない中小企業を中心に、業務システムの構築とSaaSからの移行を支援している。「SaaSの標準機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせたシステムを自社の資産として持つ」という考え方のもと、不動産をはじめとする業界で、生成AIを前提とした業務システムの設計・開発を数多く手がける。
