機密情報を扱う企業のAI活用:構成の選択肢と考え方

機密性の高いデータを扱う企業がAIを業務に導入する際に検討すべき、外部AIサービス利用とローカルLLM構成それぞれの特徴・メリットと注意点、業務ごとの選び方のポイントをわかりやすく解説します。

2026年09月04日
機密情報を扱う企業のAI活用:構成の選択肢と考え方

「AIを業務に取り入れたいが、取引先情報や顧客の個人情報を外部のAIサービスに送ってよいのか判断がつかない」——製造業の図面情報、保険業の契約者情報、通信業の顧客データなど、機密性の高い情報を扱う業種の担当者から、こうした相談が寄せられることがあります。

AI活用の効果が大きいと分かっていても、情報漏えいのリスクを考えると導入に踏み切れない、という声は現場でよく聞かれます。実際には、外部のAIサービスを利用する構成だけでなく、自社内・自社専用の環境でAIを動かす選択肢もあり、扱う情報の機密度に応じて構成を使い分けることが可能です。

この記事では、機密情報を扱う企業がAI活用を検討する際の構成の選択肢と、それぞれの特徴、選び方の考え方を紹介します。

この記事の要点(30秒でわかるまとめ)

  • AIの構成には、外部AIサービスを利用する方法と、自社専用環境でAIを動かすローカルLLM構成がある
  • 扱う情報の機密度によって、適した構成は変わるため、一律にどちらが良いとは言い切れない
  • ローカルLLM構成はデータを外部に送信しない設計にしやすい一方、構築・運用のコストや専門知識が必要になる
  • 自社の情報管理ポリシーやコンプライアンス要件に照らして、専門家も交えた検討が望ましい

AI活用における構成の選択肢

結論:AIを業務に組み込む際の構成は、大きく「外部AIサービスを利用する構成」と「自社内・自社専用環境でAIを動かすローカルLLM構成」に分けられます。

多くの業務AIシステムは、外部のAI提供元が公開しているAPIを呼び出す構成で作られています。この場合、処理対象のデータは通信を通じて外部のサーバーへ送信され、AIによる処理結果が返ってくる、という流れになります。

一方、ローカルLLM構成では、AIのモデル自体を自社が管理する環境(社内サーバーやプライベートクラウド環境など)に配置し、データを外部に送信せずにAI処理を完結させます。どちらの構成にもメリット・デメリットがあり、扱う情報の性質によって適した選択肢は変わります。

外部AIサービス利用のメリットと注意点

結論:外部AIサービスは高性能なAIを比較的低コストで利用できる一方、データが外部に送信される構成であるため、扱う情報の機密度によっては注意が必要です。

外部AIサービスは、提供元が大規模な計算基盤を運用しているため、自社で環境を構築するよりも低コストかつ短期間で高性能なAIを利用できるという利点があります。多くの提供元は、送信されたデータをAIの学習に再利用しない設定や、通信の暗号化といったセキュリティ対策を用意していますが、その内容や範囲は提供元・契約プランによって異なります。

そのため、外部AIサービスを利用する場合は、提供元のデータ取り扱いポリシーを確認したうえで、自社の情報管理ルールに照らして問題がないかを個別に判断する必要があります。特に、契約書に守秘義務条項がある取引先情報や、個人情報保護法上の配慮が必要な顧客データを扱う場合は、慎重な確認が求められます。

ローカルLLM構成のメリットと注意点

結論:ローカルLLM構成は、データを自社の管理下から外に出さない設計にしやすい一方、構築・運用には相応のコストと専門知識が必要になります。

ローカルLLM構成では、AIモデルを自社が管理する環境内で動かすため、処理対象のデータが外部のサーバーに送信されることがない設計にできます。取引先との守秘義務契約が厳しい業種や、機密性の高い図面・契約情報を扱う業務では、こうした構成が選択肢として検討されます。

一方で、AIモデルを動かすための計算基盤の構築・維持や、モデルの更新・チューニングには専門的な知識と一定の運用コストが必要です。また、外部AIサービスと比べて利用できるAIモデルの性能に制約がある場合もあるため、自社の用途にどこまでの性能が必要かを見極めたうえで検討する必要があります。

どちらを選ぶべきか:判断の考え方

結論:情報の機密度・業務で求める精度・投資できる予算の3つを軸に、業務ごとに構成を使い分けるという発想が現実的です。

検討軸外部AIサービスが向くケースローカルLLM構成が向くケース
情報の機密度匿名化・一般化された情報が中心守秘義務・個人情報を含む機密性の高い情報
求める精度・性能最新・高性能なAIモデルを使いたい一定水準の精度で運用範囲を限定できる
予算・体制初期コストを抑えて早期に導入したい継続的な運用体制・予算を確保できる

すべての業務を一つの構成に統一する必要はなく、機密性の低い業務は外部AIサービスを利用し、機密性の高い業務だけローカルLLM構成にする、といったハイブリッドな設計も選択肢の一つです。保険業界の申込書類の自動読み取りのように、契約者の個人情報を扱う業務では、こうした構成の使い分けが特に重要になります。

自社に合った構成を見極めるために

結論:自社の情報管理ポリシーやコンプライアンス要件を整理したうえで、業務ごとに扱う情報の機密度を棚卸しすることが、構成を検討する出発点になります。

まずはどの業務でどのような情報を扱っているか、その情報が漏えいした場合の影響度はどの程度かを整理します。そのうえで、社内の情報管理規定や、取引先との契約条件、業界特有のコンプライアンス要件と照らし合わせて検討することが望ましい進め方です。法的な要件の解釈が必要な場合は、専門家への確認をあわせて推奨します。構成の技術的な設計については、AI受託開発で自社の業務内容を踏まえた提案を受けることも可能です。

よくある質問(FAQ)

Q. ローカルLLM構成にすれば情報漏えいのリスクはゼロになりますか? A. 外部への送信リスクは抑えられますが、社内環境自体のセキュリティ対策やアクセス管理も別途必要になるため、リスクがゼロになるわけではありません。

Q. 外部AIサービスは基本的に危険という理解でよいですか? A. 一概には言えません。提供元のデータ取り扱いポリシーや契約内容によって安全性は異なるため、個別に確認したうえで、扱う情報の機密度に応じて利用可否を判断することをおすすめします。

Q. ローカルLLM構成の導入費用はどれくらいかかりますか? A. 求める性能や自社の既存インフラによって大きく変動します。まずは扱う業務範囲を明確にしたうえで、個別に見積もりを取ることをおすすめします。

Q. 業務ごとに構成を使い分けることは可能ですか? A. 可能です。機密性の低い業務は外部AIサービス、機密性の高い業務はローカルLLM構成といった使い分けは、実務上よく検討される設計です。

まとめ

機密情報を扱う企業がAIを活用する際は、外部AIサービスを利用する構成と、ローカルLLM構成のどちらが良いかを一律に決めるのではなく、扱う情報の機密度や業務内容に応じて使い分けることが現実的なアプローチです。自社の情報管理ポリシーを整理したうえで、専門家の意見も交えながら構成を検討することをおすすめします。

Irwin&co株式会社は、機密情報の取り扱いを踏まえたAI業務システムの構成設計から開発までを行っています。自社の情報管理要件に合わせたAI活用を検討したいという場合は、お問い合わせからご相談ください。

執筆者プロフィール

アーウィン 海(Irwin&co株式会社 代表取締役)

アーウィン 海Irwin&co株式会社 代表取締役

生成AIを活用したシステム開発・コンサルティング・研修サービスを提供するIrwin&co株式会社を創業し、IT専任者のいない中小企業を中心に、業務システムの構築とSaaSからの移行を支援している。「SaaSの標準機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせたシステムを自社の資産として持つ」という考え方のもと、不動産をはじめとする業界で、生成AIを前提とした業務システムの設計・開発を数多く手がける。

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