AIの処理待ち時間(レイテンシ)が業務体験に与える影響と対策
生成AIを業務システムに組み込む際、処理待ち時間(レイテンシ)が現場の使い勝手を左右することがあります。レイテンシが発生する要因と、体感速度を改善する設計の考え方を解説します。
業務システムに生成AIの機能を組み込んだものの、「結果が返ってくるまで待たされる」という声が現場から上がることがあります。AIの処理には一定の計算時間が必要であり、特に複雑な処理や大量のデータを扱う場合には、数秒から数十秒の待ち時間が発生することも珍しくありません。
この待ち時間(レイテンシ)は、使う側の体感として「遅い」「使いにくい」という評価につながりやすく、せっかく導入したAI機能が現場に定着しない原因になることもあります。この記事では、AIの処理待ち時間が業務体験に与える影響と、その対策となる設計の考え方について解説します。
この記事の要点(30秒でわかるまとめ)
- AIの処理待ち時間は業務の種類によって許容度が大きく異なる
- レイテンシはモデルの処理内容とネットワーク・外部API呼び出しが主な要因になりやすい
- 非同期処理やキャッシュの活用によって体感速度を改善できる見込みがある
- 待ち時間そのものを隠さず進捗が伝わるUI設計も体験の改善につながる
AIの処理待ち時間が業務体験に与える影響
結論:AIの処理待ち時間に対する許容度は業務の性質によって異なり、リアルタイム性が求められる業務ほど待ち時間が使い勝手の評価に直結しやすくなります。
例えば顧客対応中にAIがその場で回答候補を提示するような用途では、数秒の遅延であっても対応のテンポを崩す要因になり得ます。一方で、夜間バッチ処理のように結果が翌朝までに揃っていればよい用途では、処理時間の長さが業務上の問題になりにくい場合もあります。AI機能を業務システムに組み込む際は、その業務がどの程度のリアルタイム性を必要としているかを事前に整理しておくことが設計の出発点になります。
レイテンシが発生する主な要因
結論:レイテンシは、AIモデル自体の処理に要する時間と、外部APIとの通信にかかるネットワーク遅延という、大きく二つの要因から生じます。
モデルのサイズ・処理内容による違い
扱うデータ量が多い処理や、複雑な推論を要する処理ほど、AIの応答に時間がかかる傾向があります。業務要件に対して必要以上に高機能なモデルを使うと、精度は高くてもレイテンシが増大し、結果として現場の体感速度を損なう可能性があります。用途に応じて処理内容やモデルの使い分けを検討することが望ましいです。
外部API呼び出しのネットワーク遅延
社内システムから外部のAIサービスを呼び出す構成では、ネットワークの往復にかかる時間もレイテンシの一部になります。呼び出し回数が多い処理や、複数のAI処理を直列に実行する設計になっていると、個々の遅延が積み重なって全体の待ち時間が大きくなりやすい点にも注意が必要です。
レイテンシを抑える設計の工夫
結論:処理をすべて同期的に行うのではなく、非同期処理やキャッシュの活用によって、ユーザーが実際に待たされる時間を短縮する設計上の工夫が有効です。
非同期処理・バックグラウンド処理の活用
ユーザーの操作を止めずに裏側でAI処理を進め、完了次第結果を反映する非同期処理を取り入れることで、画面上での待ち時間を体感させない設計が可能になります。見積書の自動生成のように、入力完了後にある程度の処理時間を要する業務では、この非同期処理の考え方が特に有効です。関連する仕組みについては見積書の自動生成システムの仕組みと導入効果でも触れています。
キャッシュ・事前処理の活用
同じ内容や類似した処理を繰り返し実行する場合は、一度処理した結果をキャッシュしておくことで、次回以降の応答速度を改善できる見込みがあります。蓄積したデータを自然文で検索するRAGの仕組みを活用する場合も、検索対象のデータを事前にインデックス化しておくことで応答速度に差が出ます。詳しくは蓄積データを自然文で検索する:RAG検索の業務活用入門で解説しています。
体感速度を改善するUI/UX設計
結論:処理に一定の時間がかかること自体は避けられない場合も多いため、進捗状況をユーザーに伝えるUI設計によって体感的な待ち時間を短くする工夫も重要です。
処理中であることを示すインジケーターや、途中経過を段階的に表示する仕組みを用意するだけでも、何も表示されないまま待たされる場合に比べて体感的なストレスは軽減されやすいといわれています。画像やPDF、音声など複数の形式を横断して処理するマルチモーダルAIを扱う業務システムでは、処理内容ごとに進捗の見せ方を変える工夫も検討の余地があります。
よくある質問(FAQ)
Q. レイテンシを完全にゼロにすることはできますか? A. AIの処理には一定の計算時間が必要なため、完全にゼロにすることは難しいですが、設計の工夫によって体感的な待ち時間を大きく縮められるケースが多くあります。
Q. どの業務からレイテンシ対策を検討すべきですか? A. リアルタイム性が求められる業務(顧客対応中の支援など)から優先的に検討することをおすすめします。バッチ処理のような業務は優先度を下げても問題ないケースが多いです。
Q. レイテンシ対策にはどの程度のコストがかかりますか? A. 非同期処理やキャッシュの仕組みを組み込む設計・開発コストが発生します。AIの利用コスト自体の考え方については業務AIの利用コストは実際いくらか:テキスト処理1回0.1円の内訳と運用設計もあわせてご参照ください。
Q. 既存のシステムに後からレイテンシ対策を組み込めますか? A. システムの構成によって対応可否や方法は異なります。まずは現状のボトルネックがどこにあるかを整理した上で、具体的な改善策をご相談いただくことをおすすめします。
まとめ
生成AIを業務システムに組み込む際、処理待ち時間は現場の使い勝手を大きく左右する要素です。レイテンシが発生する要因を理解した上で、非同期処理やキャッシュの活用、進捗が伝わるUI設計といった工夫を取り入れることで、AI機能が現場に定着しやすい業務体験をつくることが見込めます。
Irwin&co株式会社は生成AI特化の受託開発を行っており、業務の特性に応じたAI機能の設計・実装を支援しています。AI駆動開発により開発費を相場の約1/2に抑えながら、現場で実際に使われるシステムづくりに取り組んでいます。AI機能の導入・改善についてご相談されたい場合は、お問い合わせからご連絡ください。
執筆者プロフィール

アーウィン 海Irwin&co株式会社 代表取締役
生成AIを活用したシステム開発・コンサルティング・研修サービスを提供するIrwin&co株式会社を創業し、IT専任者のいない中小企業を中心に、業務システムの構築とSaaSからの移行を支援している。「SaaSの標準機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせたシステムを自社の資産として持つ」という考え方のもと、不動産をはじめとする業界で、生成AIを前提とした業務システムの設計・開発を数多く手がける。
